「筋膜」という言葉は一般的には馴染みも薄く、ただ字を見て「筋肉の膜」だと思う位です。医学書にもその役割は具体的には明記されていません。
二本足歩行で生活している人間は、重力の影響の中でバランスを保ちながら正しい姿勢を維持しなくてはなりません。というのも、何らかの影響で起きた、体の歪みが重力によって強調されてしまうからです。外観からでも悪い姿勢の判断は誰にでもできますが、具体的にどこの筋肉、又は筋膜が萎縮したり癒着したりして関節位置や動きが正常でなくなり、全体的な体型の変化として感じる取ることは難しいです。
体に痛みやシビレなどを感じる患者の治療法として、痛みやシビレを感じるその部位だけを解消させるための処置法、つまり対症療法がほとんどです。この方法は全くの誤りではありませんが、日常生活やスポーツ障害での腰痛やヒザ の痛みなどに関しては誤っている治療法が多いのです。なぜならば、痛み=炎症として捉えてしまうからです。痛みは結果的にある部位に現れますが、痛みの原因は意外と別の部位にある場合が多いからです。
例えば、膝蓋骨の内側の痛みやヒザの周囲に腫れが生じた場合には原因が殿筋にあることが多く、特に中殿筋膜の癒着や、中殿筋の拘縮によってヒザの外側に向かって走っている腸けい靱帯が縮んで膝関節が圧迫された結果、膝に痛みや腫れが生じるのです。
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その前に筋膜の種類を皮下筋膜と深在筋膜の2つに分けてみましょう。 |
●皮下筋膜
皮下筋膜は皮膚の下にある皮下組織(皮下脂肪が多く、皮下脂肪組織とも言われている)の中に存在して、体全体をクモの巣状に包んでいます。
役割としては、重力場において体が自由に動けるように支えの器官としてあらゆる方向に疎らに構成されています。また、外部からの圧迫に関しての保護や、体性感覚機能に類似した伝達経路の役割をしていると思われます。
足底マッサージで言われている反射区には、この筋膜を通じて反応を伝えていると思われます。この皮下筋膜は疎線維性結合組織(血管が存在しないために透明で弾力性のある組織)と言われる結合組織で出来ており、膠原線維(コラーゲン)、弾性線維、細網線維などから構成されています。
また、この結合組織は外部からの圧迫の反応に変形もしやすい。すなわち、融通性がありストレスに対してあまり抵抗しません。そのために外傷・高熱・打撲や筋肉の過度の疲労などによって変形を受けやすいのです。
●深在筋膜
深在筋膜は、皮下筋膜のすぐ下に存在している浅筋膜を含む深部の筋膜(場所によっては2〜3葉になっている)、脊柱起立筋(腸肋骨・最長筋・棘筋)を支持し包み込んでいる胸腰筋膜(腰背筋膜ともいう)、手首や足首の腱を支持している伸筋支帯や筋周膜のように各筋肉を包み、筋肉と筋肉がスムーズに動けるようにする筋膜、これら全てここでは深在筋膜とする。
結合組織は密線維性結合組織で構成要素は疎線維性結合組織と同じではありますが、膠原線維が明らかに優勢であるために白色を呈し、伸展性を持たない組織です。そのために、筋肉運動においても反応は低く、すぐには変形や癒着はしません。ところが、同じ筋肉運動を長い期間持続させると特に筋肉の起始部と停止部に近い周囲の筋膜は変形や癒着を起こします。そうなると、関節の動きが制限され、炎症と同じような痛みをよく伴います。そのためか、ただの筋膜症の症状でも「炎症」と間違えて患部を冷やす処置をしてかえってマイナスになってしまい完治どころか症状が悪化してしまうケースが非常に多いのです。
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磯ア式筋膜マッサージでは、深在筋膜へのアプローチを主体として(特に筋肉の起始部と停止部)施術する事で関節の可動範囲が大きくなり、個々の筋肉の収縮及び弛緩がスムーズに行われるようになります。さらに、体のバランスを整える事で重力場において二本足で生活する私たちにとって大切なS字状(立ち姿勢)の体型に近づける事が出来きます。体のバランスを整えていくプロセスの中で大腸筋の場合は筋膜ではなく、筋肉へのアプローチが主体になる事もあります。また、筋膜だけへのアプローチは不可能に近いです。それは、施術をすると筋肉に必ず触れる事になるからです。しかし目的は筋膜の変形(ゆるんだり縮んで厚くなったりする)や癒着を解放する事と、筋肉が正常の収縮と弛緩が出来るようにする事なのです。 |
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クライアントに対する施術において重要な事は、症状に対しての原因の部位を的確に見つける事です。このときによく間違えやすいのが、ケガと故障を理解しないまま施術をする事です。ケガでは打撲や損傷の部位が明確です。しかし、故障は痛いからといってその部位が原因になる事は少ないのです。
例として手首の腱鞘炎の場合、肩関節周囲の筋膜の癒着により肩の可動範囲が狭くなり前腕である屈筋群や伸筋群へのストレスが大きくなり、結果的に肩や肘よりも弱い手首の腱鞘に大きなストレス(強い力で手首を動かす)が加わる事で腱鞘炎になります。改善するには肩関節周囲から前腕への筋膜の癒着と拘縮した筋肉を解放する事で問題が解決します。手首へのアプローチは施術の最後に行うか、または触れずに改善する事が多いです。施術者にとって結果的に起こった痛みを正しく理解する事が重要である事は何度言っても言い足りません。他にも次のような症状には注意が必要です。顎関節症・急性頸部筋筋膜症(寝違え)・バネ指・急性腰部筋筋膜症(ぎっくり腰)・坐骨神経痛・膝関節症(関節液が溜まる症状も含む)・足底筋膜炎 …etc。 |
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磯ア式筋膜マッサージでは、クライアントが最初に訴えている症状(痛み・シビレなど)をまず優先的に解決させる施術を目指します。その後から体全体のバランスを整えながら施術をしていきます。その後からの過程で、最初に訴えている症状となる根本的な原因が見つかる事も少なくありません。そのためにも絶えず注意深く観察しながら施術していかねばならない為、ここでは一切慰安的な要素のマッサージが行われる事はありません。もっと深みがあり、最終的に体のみならず心や感情をも開放させる施術です。体に物理的に起こった歪みは心の奥深くにまで影響を与えてしまう(不安・心配などの気持ち)。人間の心と体の関係は別々に捉えるのではなく、一つの問題として捉えるべきです。この認識は現代医学の中でもホリスティック医学を反映させながら「病との闘い」を通じて心身療法の核を追求しているように思われます。
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1930 年代にアメリカでアイダ・ロルフによって開発されたロルフィングはロルファー(治療師)により構造的統合(ストラクチュアル・インテグレーション)や姿勢解放と言った考え方により、皮下筋膜を主体とした治療法を行っています。理論のベースになっている精神分析理論から人間の性格分析の考え方と人体の解剖学的な研究が独自の療法を編み出したとされています。ロルファーは、心の歪みを矯正するには精神治療だけではなく歪んでしまった体(特に姿勢)を矯正しなくてはならないと考えており、人間と重力の関係の中で重力軸には直線的に働く力ですが、人間の姿勢はこの直線的な力に対していつも不安定な形を取っています。そのために体に歪みが生じて様々な不具合が起こると考えました。そこで解剖学的な研究をベースにして重力軸に合わせて動けるような人体的改造法を考案したのがロルフィングなのです。 |